司馬遼太郎の『国盗り物語』を読み解く⑦お万阿悩乱~奈良屋の主人

お万阿悩乱、初更の鐘、奈良屋の主人の3章では、庄九郎がどのようにお万阿を抱き、奈良屋の主人になるのかが描かれている。

が、奈良屋が窮地に立たされた時に庄九郎はどう行動するか。

斎藤道三 前編 お万阿悩乱、初更の鐘、奈良屋の主人-あらすじ

 

お万阿悩乱

 

杉丸は朝からお万阿にひれふしている。庄九郎が有馬から姿を消したからだ。

お万阿は庄九郎への想いをつらつらと杉丸に話し、京へと戻った。

 

庄九郎は京へと向かって歩いている。

お万阿は手に入れることが出来るが、欲しいのは奈良屋の財産だ。

しかしお万阿を抱かなければ奈良屋は自分の物にならない。

京に戻ったらお万阿を抱こう・・・どう抱くべきか、庄九郎は女をしらない。

お万阿の心を溶かすにはその道の芸がいる。庄九郎はその道のいちばんの物知りといわれる妙善という女からご教授願うこととした。

庄九郎は妙善の庵にて、これも一国一天下をなさんがためだと生真面目にその情事を得た。

 

初更の鐘

 

お万阿が京に戻ってふた月ほどたったある日、庄九郎が現れた。

庄九郎を部屋で待たせ、お万阿は着替え化粧をし対面した。

一通り挨拶をした後、庄九郎は京に宿がないから今日は泊めてもらうと、お万阿もどうぞと答える。

お万阿は京での用事は何なのかと聞くと、庄九郎はそなたを抱く事とさらりと答える。

庄九郎様が一生奈良屋に居てくださるのであれば、お万阿は寝屋で待つと答えた。

 

その夜、月が昇り、浄菩提寺の初更をつげる鐘が響いた。

庄九郎はお万阿と契った。

 

奈良屋の主人

 

庄九郎は奈良屋の入婿になったとたん商人そのものになった。

奈良屋の主人になったにもかかわらず店の売り子にまじり、行商までやった。

庄九郎はつぎつぎと新商法をあみだし油を売り、奈良屋の身代はみるみるふとり、お万阿はよろこんだ。

 

順風満帆に見えた奈良屋だったが、事態が急転する。

奈良屋の油が売れすぎて、油の専売権をもつ山崎神人の油が京で売れなくなり、大山崎から神人三百人が奈良屋に押しかけてきたのだ。

庄九郎はいきり立つ神人の前に出て、奈良屋の店を閉めますと言い、馬に乗り駆けていった。

 

司馬さんの余談

 

司馬さんは奈良屋の主人の章で、余談だがと言い、京の市中での山崎の油売りの様子を記している。

余談だが、山崎からも京の市中へ油の行商がくる。
そういう者がくると、奈良屋など京の油屋は、戸をおろして、山崎油売りの通過を待ったものだ。それほどまでに京の油問屋は、山崎の地下人に対して敬意をはらったものである。

(国盗り物語 斎藤道三 前編 奈良屋の主人 より引用)

 

国盗り物語にも当時のわらべうたとして書かれていますが、八幡宮に伝わる油商人の図に「宵ごとに 都に出ずるあぶらうり 更けてのみ見る山さきの月」の歌が添えられています。

当時の荏胡麻油の用途は灯りと和傘や家屋などに使う塗料でした。夕刻になり、油が切れていたたことに気付く頃をみはからって山崎の油売りが都に現れ、商売をしていたことを示しています。

別の油売りの図では「きのふから いまた山さきへもかへらぬ」と書かれています。油売りが、夜を徹することもある重労働であったことをうかがい知ることが出来る言葉ですね。

自由商業時代でなかった中世の『座』

 

司馬さんは、庄九郎も大山崎八幡宮の商権を笠に着る神人にはかなわなかったとして、『座』という面倒なものを説明せねばならないと、1ページ使って説明しています。

この時代ほとんどの業種の商工業は自由に開業できず、許可権を、それぞれ特定の有力社寺が持っていた。社寺といっても宗教的な存在でなく領地を持った武装国である。

神聖権と支配権をもって、商工業の特許権をも持っている。

奈良の興福寺は、塩、こうじ、すだれなど、15品種にわたる商工権を持ちばく大な収入を得ていた。

 

中世に発達した座は、排他的・独占的に商いを行う組織であるが、大山崎の神人も仕入れ・製造・流通販売などの各過程において朝廷・幕府から独占的に獲得した様々な権益を駆使し、他の商人を排除していった。

特に諸関の通行料免除の特権は原料の輸送と油の販売上、非常に重要な特権であり、鎌倉時代に獲得して以来、南北朝時代以降はその特権を拡大し、畿内における油専売権を確立し他の商人を駆逐していった。

 

のちに斎藤道三の娘婿、織田信長が自由経済の楽市・楽座を開くが、そういった経済制度の必要性を教えたのは道三であると司馬さんは書き記しています。

 

京の奈良屋といえども、山崎八幡宮直属の神人の方が格式が上で、それが集団を組んできたので庄九郎にもどうにもならなったのだ。

 

国盗り物語 斎藤道三 前編

開運の夜 後の斎藤道三、松波庄九郎は妙覚寺を飛び出したが、乞食に成り下がっている・・・
奈良屋のお万阿 庄九郎は、青烏帽子の源八を討ったといって奈良屋を訪れるが・・・
運さだめ 奈良屋の護衛隊長になった庄九郎、荷駄を備前まで運ぶのだが・・・
小宰相 庄九郎は有年備中守の館に火を放とうとするがそこである女と遭遇するのであった・・・
京へ帰る 荏胡麻の買い付けをしながらも庄九郎は備前一国を盗れないだろうかと形勢を調べる。
淫楽~兵法者 奈良屋の主お万阿は松波庄九郎に会いに有馬温泉を訪れる。
お万阿悩乱~奈良屋の主人 庄九郎はついに万阿を抱き、奈良屋の主人になったのだが・・・
奈良屋消滅~美濃へ 庄九郎は名実ともに奈良屋を盗り、そこから一国を盗るべく美濃へ出立する。
常在寺~朱唇 庄九郎は美濃国に入り、常在寺の日護上人と兄の長井利隆に会う。
深芳野、西村勘九郎 長井利隆に同行し庄九郎は土岐頼芸に会う。名を西村勘九郎とする。土岐頼芸の愛妾深芳野も登場する。
京の夢、お万阿問答 一旦京の山崎屋に戻った庄九郎。庄九郎とお万阿の掛け合いがコミカルに描かれている。
槍術「一文銭」,槍、 槍 西村勘九郎が法蓮房時代より独学で学んだ槍術で名声を上げようとする。
水馬、林の中で 西村勘九郎はひょんなことから深芳野に接近する・・・
天沢履、虎の瞳、深芳野を奪る 勘九郎は得意の槍を使い頼芸と賭けをする・・・
川手城、火炎剣 土岐頼芸の使いで川手城を訪れる西村勘九郎。帰路で闇討ちにあうが・・・
那那姫 西村勘九郎は守護が住まう城を落とすために東奔西走する。
府城乗っ取り、大狂言 西村勘九郎率いる軍勢が守護・土岐政頼が住まう川手城を乗っ取りに向かう。