司馬遼太郎の『国盗り物語』を読み解く⑥淫楽~兵法者

奈良屋の主お万阿(後家)は松波庄九郎(後の斎藤道三)に会いに有馬温泉を訪れる。

淫楽、有馬狐、兵法者の3章では有馬温泉での出来事が書かれています。

斎藤道三 前編 淫楽、有馬狐、兵法者-あらすじ

 

淫楽(みだら)

 

備前国から無事に京へ帰ってきた庄九郎は、一文の報酬も取らずにどこかへともなく消えてしまっていた。

奈良屋のお万阿は庄九郎を探させた。

手代の杉丸をはじめ、小者、飼いおきの牢人に手をつくし探させたが見つからなかった。

ついに年が明け永正十五年(1518)。

杉丸は庄九郎の居場所を突き止めた。庄九郎は有馬の湯で湯治をしているというのだ。

二月。お万阿は有馬へ出かけた。

いきなり訪ねて驚かせようとお万阿は庄九郎のもとへ単身で訪ねたが、

庄九郎は本当にお万阿か?昨晩もお万阿はここへ来た。おのれは裏山に巣食う狐であろうと言い放った。

わしがお万阿どのを恋うるのを知って化けて出てきたのであろうという。

お万阿は驚いた。庄九郎様が私に恋してるなんて、お万阿はうれしい気持ちになった。

 

有馬狐

 

お万阿は、いっそ狐になりすましてさしあげようかしらと思った。

そうすれば、奈良屋の御料人でなくなりお万阿にかぶさっている人の世のきずながはらりと解けてしまう。

そうすれば後からあれはお万阿ではなく有馬に巣食う狐だったと言える。

だが、これは庄九郎の軍略で狐と決めつければお万阿は奈良屋の後家という束縛から解放される。あとくされないたわむれができるとの考えからであった。

お万阿は狐になりきって庭から庄九郎のいる部屋に近づこうとしたが、庄九郎は立ち上がり部屋を出てしまった。

お万阿は部屋に突っ立ち、馬鹿がと自分を罵った。たかが素浪人に見返られたのだ。

 

その日は暮れた。

庄九郎は次の日もその次の日も書見をし谷へ降りるという日常を送った。

お万阿を置き去りにしたのは軍略であったが、

岩間の湯につかり、お万阿はわが手に落ちるかなと庄九郎は考えていた。

岩の向こうに白い裸形が見えた。

 

兵法者

 

白い裸形はお万阿だったが庄九郎は、狐も入浴するのかと言う。

お万阿も致しますると狐になりきっている。

浴場で二人きりなのだが庄九郎はお万阿を抱きもしないどころかその裸形を見つめるだけで指一本触れなかった。

 

その翌日事件がおきた。

お万阿の従者で、刀法を修業をしていたというお万阿の護衛をしていたものが、頭蓋を割られて死んでいるのが発見された。

下手人はすぐ現れ、奈良屋に寄留したいと申し出てきた。常州小田の住人で猪谷天庵と名乗るもので、山伏の風体をしている。

杉丸はこのことを庄九郎に相談すると、庄九郎は兵法者かと興味を持った。

杉丸から猪谷天庵の背格好人相などを聞き取り、河原で会った。

庄九郎としては人間を見たうえで家来にしようという魂胆があったが、家来には向かぬと見た。

天庵はいとも簡単に庄九郎に殺られた。

翌未明庄九郎は有馬から姿を消した。

 

 

国盗り物語紀行

 

有馬温泉寺

国盗り物語 斎藤道三 前編 淫楽、有馬狐、兵法者の3章で、湯治をしている庄九郎に会いにお万阿が訪れる場所として登場する。

司馬さんは有馬温泉寺のことを以下のように説明しています。

この当時の湯治は、なかば宗教的なものである。
上古、温泉の多くは僧侶によってひらかれた。僧侶は、シナの医書を読んで、温泉の薬効あることを知っている。かれらは温泉に寺を建て、宿坊をつくり、大いに宣伝して俗人をあつめた。仏法を言葉で説くよりも、温泉の薬効で人をおどろかせ、しかるのちに「それこそ霊験である」と説いた。有馬の温泉も、奈良朝の僧行基がひらいたもので、温泉寺もこの行基菩薩の建立であった。

(国盗り物語 斎藤道三前編 淫楽 より引用)

 

「有馬温泉史話」によれば、行基が大坂平野の北、伊丹の昆陽に大池(昆陽池)を掘っていたとき、一人の人が「私は数年来苦しんでいるので、有馬の山間の温泉に連れて行ってくれないだろうか」と懇願して来たので、行基はその人の望みを叶えるため、有馬に連れてゆくことにしました。

行く途中でその人の望みをあれこれと叶えてやると、その人はみ仏の姿となり、有馬温泉を復興するようにと言って紫雲に乗って東方へ飛び去ってしまいました。

行基は、如法経を書写して泉底に埋め、等身大の薬師如来像を刻み、一宇の堂を建て、そこへ尊像を納めたといわれています。行基が堂を建立して以来、有馬は相当な賑わいを見せたと伝えられています。

 

有馬温泉の地図(googleマップ活用)

 

 

国盗り物語 斎藤道三 前編

開運の夜 後の斎藤道三、松波庄九郎は妙覚寺を飛び出したが、乞食に成り下がっている・・・
奈良屋のお万阿 庄九郎は、青烏帽子の源八を討ったといって奈良屋を訪れるが・・・
運さだめ 奈良屋の護衛隊長になった庄九郎、荷駄を備前まで運ぶのだが・・・
小宰相 庄九郎は有年備中守の館に火を放とうとするがそこである女と遭遇するのであった・・・
京へ帰る 荏胡麻の買い付けをしながらも庄九郎は備前一国を盗れないだろうかと形勢を調べる。
淫楽~兵法者 奈良屋の主お万阿は松波庄九郎に会いに有馬温泉を訪れる。
お万阿悩乱~奈良屋の主人 庄九郎はついに万阿を抱き、奈良屋の主人になったのだが・・・
奈良屋消滅~美濃へ 庄九郎は名実ともに奈良屋を盗り、そこから一国を盗るべく美濃へ出立する。
常在寺~朱唇 庄九郎は美濃国に入り、常在寺の日護上人と兄の長井利隆に会う。
深芳野、西村勘九郎 長井利隆に同行し庄九郎は土岐頼芸に会う。名を西村勘九郎とする。土岐頼芸の愛妾深芳野も登場する。
京の夢、お万阿問答 一旦京の山崎屋に戻った庄九郎。庄九郎とお万阿の掛け合いがコミカルに描かれている。
槍術「一文銭」,槍、 槍 西村勘九郎が法蓮房時代より独学で学んだ槍術で名声を上げようとする。
水馬、林の中で 西村勘九郎はひょんなことから深芳野に接近する・・・
天沢履、虎の瞳、深芳野を奪る 勘九郎は得意の槍を使い頼芸と賭けをする・・・
川手城、火炎剣 土岐頼芸の使いで川手城を訪れる西村勘九郎。帰路で闇討ちにあうが・・・
那那姫 西村勘九郎は守護が住まう城を落とすために東奔西走する。
府城乗っ取り、大狂言 西村勘九郎率いる軍勢が守護・土岐政頼が住まう川手城を乗っ取りに向かう。