西村勘九郎から長井新九郎へ、『国盗り物語』斎藤道三前編を読み解く⑰

 

司馬遼太郎さんの『国盗り物語』 斎藤道三 前編 府城乗っ取り、大狂言の章では、

 

西村勘九郎(後の斎藤道三)率いる軍勢が守護・土岐政頼が住まう川手城を乗っ取り、勘九郎が長井新九郎に名を変える場面までが描かれています。

 

斎藤道三 前編 府城乗っ取り、大狂言-あらすじ

府城乗っ取り

大永七年八月 明月の夜

西村勘九郎(後の斎藤道三)は鷺山城下に五千五百の軍勢を集結させた。

勘九郎は美濃国内の豪族を口説き、守護・土岐政頼の追放を決行するに至ったのだ。

月が金華山にのぼったと同時に勘九郎の部隊は出立した。沼が月明りをうけてきらきらと光っている。

土岐政頼はこの平穏な美濃の国内で反乱が起こるなどとは夢にも思っていない。この日は京よりよんだ白拍子の観月宴を催していた。

そこへ、勘九郎の軍勢が城内に入り込んだのだ。勘九郎に仕える赤兵衛と耳次が白拍子に紛れ城内に潜伏していたから城門はたやすく開いた。

家臣より「頼芸様ご謀反」という言葉を聞いたとき政頼は何かの間違いであろうと信じなかったが、急ぎ逃げるべく身支度をした。

 

大狂言

 

勘九郎は城内の一室で政頼を発見した。近習の武士の後ろで震えていた。

勘九郎は「命は取らないので美濃から出てくださりませ」と言上したが、近習のものが刃向かってきたが相手にはならなかった。

政頼は百騎ほどの勘九郎軍に追われ、美濃を脱出し姻戚関係のある越前一乗谷の朝倉孝景を頼り身を寄せた。

 

翌日、頼芸は鷺山城を離れ府城である川手城に入城した。勘九郎の根回しで朝廷から頼芸に美濃の守護の沙汰が下った。

このクーデターにより勘九郎は国主の執事となった。頼芸は勘九郎に本巣郡文殊城(もとすのこおりもんじゅじょう)をあたえたが、勘九郎は川手城内に屋敷を造り土岐家の家政を見ている。

本巣郡文殊城では不足か?と問われる勘九郎のもとに思いがけない話が舞い込んできた。

その話というのが、加納城主・長井利隆が病気がちを理由に長井家の名跡を継いでくれないだろうかということだった。それに利隆には跡を継ぐ子がいなかった。

長井家は土岐家の支族としては最大のものだから、勘九郎がこの家を継げば美濃を変えることが出来るだろうとのことだった。勘九郎は長井家の養子になり長井新九郎利政と名のる様になった。

 

新九郎は法蓮房、松波庄九郎、奈良屋庄九郎、山崎屋庄九郎、再び松波庄九郎、西村勘九郎、長井新九郎と名を変えたのだった。

 

(斎藤道三 前編 終)

府城乗っ取り、大狂言の章-レビュー

府城乗っ取りの前章那那姫の章で東奔西走し美濃の豪族たちを味方につけた勘九郎はいよいよ美濃の守護・土岐政頼が住まう川手城を奪取しにかかります。

 

府城乗っ取りの章で登場する白拍子達も実は勘九郎が裏で画策し城内に送っているので。その白拍子達に紛れて赤兵衛と耳次が潜入し城門を開けていますね。

 

この白拍子とは平安時代末期から鎌倉時代にかけて起こった歌舞を演ずる芸人のことで、巫女が布教の行脚中において舞を披露していく中で、次第に芸能を主としていく遊女へと転化していきました。白拍子を舞う女性たちは遊女とはいえ貴族の屋敷に出入りすることも多かったようです。

 

司馬さんは作中でこの白拍子を上手く用い、川手城奪取の足掛かりにしています。又、明月の日の観月宴というのがポイントですね。日にちを絞って乗り込みの準備ができますし、読み手にもその準備や情景が伝わってきます。

 

川手城に潜入した勘九郎は大狂言の章で政頼と対峙します。そしてこの章の題名にもなっている狂言を演じるのです。近習の後ろで震えている政頼に「この美濃より出てくだされ」と言う。これは別に政頼の弟・頼芸が言い出したわけでもないのですが、勘九郎が国盗りを実行するにあたり用意周到に頼芸に言わせて下知状まで書かせています。あたかも自分は頼芸に言わされているのだという体で「出て下され」と言う。本人(勘九郎)も作中でそれがおかしくて笑っていますが、斎藤道三編の区切りをこの大狂言の章にしているのは司馬さんなりの意味があると思われます。

 

そして、大狂言の章の最後には長井利隆から長井家を譲られて、後編への期待感を持たせています。

国盗り物語 斎藤道三 前編

開運の夜 後の斎藤道三、松波庄九郎は妙覚寺を飛び出したが、乞食に成り下がっている・・・
奈良屋のお万阿 庄九郎は、青烏帽子の源八を討ったといって奈良屋を訪れるが・・・
運さだめ 奈良屋の護衛隊長になった庄九郎、荷駄を備前まで運ぶのだが・・・
小宰相 庄九郎は有年備中守の館に火を放とうとするがそこである女と遭遇するのであった・・・
京へ帰る 荏胡麻の買い付けをしながらも庄九郎は備前一国を盗れないだろうかと形勢を調べる。
淫楽~兵法者 奈良屋の主お万阿は松波庄九郎に会いに有馬温泉を訪れる。
お万阿悩乱~奈良屋の主人 庄九郎はついに万阿を抱き、奈良屋の主人になったのだが・・・
奈良屋消滅~美濃へ 庄九郎は名実ともに奈良屋を盗り、そこから一国を盗るべく美濃へ出立する。
常在寺~朱唇 庄九郎は美濃国に入り、常在寺の日護上人と兄の長井利隆に会う。
深芳野、西村勘九郎 長井利隆に同行し庄九郎は土岐頼芸に会う。名を西村勘九郎とする。土岐頼芸の愛妾深芳野も登場する。
京の夢、お万阿問答 一旦京の山崎屋に戻った庄九郎。庄九郎とお万阿の掛け合いがコミカルに描かれている。
槍術「一文銭」,槍、 槍 西村勘九郎が法蓮房時代より独学で学んだ槍術で名声を上げようとする。
水馬、林の中で 西村勘九郎はひょんなことから深芳野に接近する・・・
天沢履、虎の瞳、深芳野を奪る 勘九郎は得意の槍を使い頼芸と賭けをする・・・
川手城、火炎剣 土岐頼芸の使いで川手城を訪れる西村勘九郎。帰路で闇討ちにあうが・・・
那那姫 西村勘九郎は守護が住まう城を落とすために東奔西走する。
府城乗っ取り、大狂言 西村勘九郎率いる軍勢が守護・土岐政頼が住まう川手城を乗っ取りに向かう。