司馬遼太郎の『国盗り物語』を読み解く⑪京の夢、お万阿問答

国盗り物語 前編 京の夢、お万阿問答の章では、一旦京の山崎屋に戻った庄九郎の姿が描かれている。

庄九郎のつかの間の休息だ。庄九郎とお万阿の掛け合いがコミカルに描かれた章となっている。

斎藤道三 前編 京の夢、お万阿問答-あらすじ

京の夢

 

美濃へ来て、半年が過ぎた。大永二年(1522)の春。

 

庄九郎あらため西村勘九郎は「一度、京都に帰りたい」と土岐頼芸に告げる。

 

頼芸は勘九郎が手元から離れるのは心もとなかったが、渋々快諾した。

 

 

勘九郎は京へ発った。

 

突然、勘九郎が帰ってきたので、杉丸赤兵衛も驚いた。お万阿にいたっては、あまりのうれしさに、放心してしまっている。

 

勘九郎は名が変わったことをお万阿に話した。

 

お万阿は六度お名前が変わりましたなと言った。

 

 

(法蓮房→松波庄九郎→奈良屋庄九郎→山崎屋庄九郎→松波庄九郎に戻り→西村勘九郎と名を変えている。こう名を変えられると途中だけこの小説を読む人などには分かりづらいだろう。が、斎藤道三はその生涯で十三回姓名を変えたと云われる。)

 

お万阿問答

 

お万阿は名前のことを聞く。

西村勘九郎になった庄九郎は言う。美濃に居る時は西村勘九郎で京に居る時は山崎屋庄九郎だと。

そして、美濃の西村勘九郎を持たせたいと、サラッと言ったが、

お万阿は頭が混乱した、山崎屋庄九郎西村勘九郎は同一人物ではないか。

庄九郎はお万阿に考える余裕をあたえない。そのことを勘九郎から頼まれて庄九郎は京まで戻ってきたのだと言う。

そして、一人の人間の中に陰と陽があるように、わしという一人の中に庄九郎と勘九郎がいる。この世に二人存在する。美濃には勘九郎が存在するのだ。と言う。

さらに、わしが将軍になるためには二人になって活躍せねばならない。

続けて、勘九郎を含めて一如の姿が勘九郎であり同時に勘九郎の別体でもある、これは華厳経に書かれている論理だと言った。

こう言葉を並べられると、お万阿は庄九郎には、かなわなかった・・・。

 

庄九郎は、京にいる間は山崎屋庄九郎として働いた。

洛中洛外を歩き荏胡麻油を売っている売り子を監督したり。神社仏閣、町屋、公卿屋敷へ丁寧にあいさつをして回った。

大山崎八幡宮にも行き、宮司、社家、神人頭などに漏れなく挨拶に回った。

山崎屋の売り上げは庄九郎が帰ってからぐんぐん上がった。

京の夢、お万阿問答にに出てくる用語・人名など

あらすじの太文字を解説していますヨ。

 

大永二年主な出来事-将軍・足利義晴(あしかがよしはる)が25年ぶりに官職を任命する儀式を開催。織田家の家臣柴田勝家出生。

西村勘九郎-美濃の西村三郎左衛門が病死し、後継ぎもないまま絶縁していた西村家を庄九郎が継ぎ名を西村勘九郎とした。

土岐頼芸-美濃の守護土岐政頼の弟。兄と家督争いで一戦交えたが敗れて、鷺山城に住んでいる。後に斎藤道三に追放される。

杉丸-山崎屋の手代。

赤兵衛-西村勘九郎が京の寺、妙覚寺本山を出る時にわしを家来にしてくだされとついてきた。今は、山城屋で働いている。

お万阿-奈良屋の後家だったが、屋号が山崎屋に変わり山崎屋庄九郎の嫁となる。

山崎屋庄九郎-西村勘九郎のもう一つの名。山崎屋の主。

-婚姻した男性が、妻以外にも囲う女性のこと。

華厳経-時間も空間も超越した絶対的な存在としての仏という存在について説いた経典。庄九郎は幼い頃から妙覚寺で学んでいるので仏法が染みついている。お万阿にも仏法用語を用いて妾を持ちたいと説いている。

洛中洛外-京の市街(洛中)と郊外(洛外

荏胡麻油-中世日本において油は、主として照明用の灯油として用いられ、油の原料としては、荏胡麻が主要原料であった。

大山崎八幡宮-現在の離宮八幡宮。斎藤道三編③の国盗り物語紀行で記載しています。

京の夢、お万阿問答 レビュー

京の夢、お万阿問答では庄九郎とお万阿の掛け合いがユーモアに描かれています。

 

京の夢では、庄九郎は美濃から帰ってきて湯殿でお万阿に垢をすってもらうのだが、お万阿は庄九郎の体をすりながら、美濃で女と関係がないかを聞く。庄九郎はのらりくらりと答える。

が、お万阿は旦那がいなかったことへの恨みで頭の中はいっぱいだ。お万阿は垢を擦り終え、優しい声を掛けながらも、お湯をかけるそぶりをし水をかける。これにはさすがの庄九郎も飛び上がる。それに追い打ちをかけるように桶に水を入れるお万阿。

 

お万阿問答では、美濃で妾を持ちたいという庄九郎。

美濃にいるのは勘九郎で、京にいるのがお前の旦那庄九郎だとか、仏法用語を持ち出して妾を持つことを快諾させようとする庄九郎にお万阿はだんだん腹が立ってきて、下帯の下で息づいているのは一つでないかと、それえをギュッとひねりあげる。これには庄九郎も痛さをこらえきれない。それを見てお万阿は笑う。

 

開運の夜~西村勘九郎までは緊張感のある物語だったが、京の夢、お万阿問答では、庄九郎とお万阿のかけあいにほっこりとしてしまう。

庄九郎も西村勘九郎に出世し、懐かしい京に帰って少し気が緩んだのかもしれない。

寺を出た時には乞食にまで成り下がっていたが、庄九郎の国を盗りたいという気持ちでここまで来た。

司馬さんも、頑張った庄九郎に労をねぎらいしばし休息をあたえたかったのかもしれませんね。

 

それにしても、司馬さんが描くお万阿がチャーミング。奈良屋の後家の時は店を切盛りする凛とした雰囲気だったが、山崎屋庄九郎の嫁になってからは旦那に尽くす可愛らしいお嫁さんという雰囲気が出ている。

 

物語は斎藤道三前編の半分を過ぎたあたりだが、今後のお万阿の運命がどうなっていくのか?

庄九郎とお万阿のなかむずましい夫婦姿をまだ見たいものである。

国盗り物語 斎藤道三 前編

開運の夜 後の斎藤道三、松波庄九郎は妙覚寺を飛び出したが、乞食に成り下がっている・・・
奈良屋のお万阿 庄九郎は、青烏帽子の源八を討ったといって奈良屋を訪れるが・・・
運さだめ 奈良屋の護衛隊長になった庄九郎、荷駄を備前まで運ぶのだが・・・
小宰相 庄九郎は有年備中守の館に火を放とうとするがそこである女と遭遇するのであった・・・
京へ帰る 荏胡麻の買い付けをしながらも庄九郎は備前一国を盗れないだろうかと形勢を調べる。
淫楽~兵法者 奈良屋の主お万阿は松波庄九郎に会いに有馬温泉を訪れる。
お万阿悩乱~奈良屋の主人 庄九郎はついに万阿を抱き、奈良屋の主人になったのだが・・・
奈良屋消滅~美濃へ 庄九郎は名実ともに奈良屋を盗り、そこから一国を盗るべく美濃へ出立する。
常在寺~朱唇 庄九郎は美濃国に入り、常在寺の日護上人と兄の長井利隆に会う。
深芳野、西村勘九郎 長井利隆に同行し庄九郎は土岐頼芸に会う。名を西村勘九郎とする。土岐頼芸の愛妾深芳野も登場する。
京の夢、お万阿問答 一旦京の山崎屋に戻った庄九郎。庄九郎とお万阿の掛け合いがコミカルに描かれている。
槍術「一文銭」,槍、 槍 西村勘九郎が法蓮房時代より独学で学んだ槍術で名声を上げようとする。
水馬、林の中で 西村勘九郎はひょんなことから深芳野に接近する・・・
天沢履、虎の瞳、深芳野を奪る 勘九郎は得意の槍を使い頼芸と賭けをする・・・
川手城、火炎剣 土岐頼芸の使いで川手城を訪れる西村勘九郎。帰路で闇討ちにあうが・・・
那那姫 西村勘九郎は守護が住まう城を落とすために東奔西走する。
府城乗っ取り、大狂言 西村勘九郎率いる軍勢が守護・土岐政頼が住まう川手城を乗っ取りに向かう。